第一回

―ピカッと・キチッと・ドシッと― 土佐での建築づくりの作法

上田建築事務所の建築設計の作法について作品を通じて綴ってみます。

建築づくりはクライアントの望む間取り・姿・予算等の要求を満たすことのみで、形造られるものではありません。

クライアントの考え方・生活のあり方や、その地が持つ形・歴史が伝えてくれる物語を具現化することでもあります。また、造られる建築がその地の気候風土に対し持たなければならない要因も備えていなければなりません。

建築が持たなければならない基本的な要因には高温多雨多湿の地で、住み心地の良い建築。ライフスタイルの変化に追随性を持つ建築。使い易い建築。ランニングコストが少なくてすむ建築。メンテナンスが少なくてすむ建築。不動産と言われるに相応しい、耐久力のある建築。台風、地震等災害に対し安全な建築。身体に優しい建築。地球環境に優しい建築。リーズナブルな建築。美しい建築。等々が考えられます。

 

〝ピカッと・キチッと・ドシッと〟は、クライアントとスタッフと共に建築の価値観を共有するための一般解です。

ピカッとは文化として持ち合わさねばならない静けさを備える建築。

キチッとは建築として持ち合わさねばならない確かさを備える建築。

ドシッとはその地として持ち合わさねばならない重たさを備える建築づくりです。

 

語感で感じていただける通りです。静けさは創造性、若しくは美しさです。僕は緊張感漂う静かな空間が好きです。その静けさです。確かさは工法とかディテールの確かな技です。土佐の気候風土に淘汰され、時間により証明され蓄積された確かな技です。その確かさです。重たさはその地が求める重量感です。その重たさです。土佐は過酷な自然と時間が証明してくれた高品質で人の心に潤いを与えるのに充分な恵(石灰石・土佐漆喰・土佐材・土佐和紙)を持ちます。

写真はピカッと・キチッと・ドシッとした建築づくりのための設計の作法の象徴としています。登録文化財に指定された、120年経た安芸市の杉本邸の客殿の伝統的な水切瓦を持つ外壁と、新築の住まいのアルミ製の水切りを持つ外壁が同じ空間に存在します。このシーンは伝統的な素材と工業製品のぶつかり合う面に緊張感を感じ、また先人が育んだ技を工業製品により処理された確かな技として同時に見せます。

この建築づくりの根幹をなす考え方が「継往開来」です。往き過ぎた時を継ぎ、次に来たることを切り開くと理解しています。この言葉を座右の銘とされていたのが、僕にとって最良のクライアントであった元伊野町長井上長英さんです。「古いものに謙虚に学び、新しいものを生み出せ」と励まし育ててくれました。処女作「いの町紙の博物館」のクライアントです。